目次
1,高齢化社会で生じる兄弟間の紛争
高齢化社会では今まで以上に「親の囲い込み」と「親の財産の使い込み」事案が増加すると考えます。
「親の囲い込み」と「親の財産の使い込み」は兄弟間の紛争に位置づけです。
※「親の財産の使い込み」について,別の記事で書いておりますので,こちらを参照ください→「親の財産の使い込み」
この記事では「親の囲い込み」について考えていきます。
2,親の囲い込みとは?
「親の囲い込み」とは,兄弟の一方が介護などを理由に親を連れ去って,匿ってしまうことです。
どのような問題が生じるのでしょうか?
・真意ではない遺言が作られるおそれがある
・親の財産の使い込みのおそれがある
問題が生じなくても,そもそも親と面会・連絡することができないのはおかしいと考えるのが普通です。
一方的に面会・連絡を遮断されてしまった側は,親と面会・連絡する権利の妨害に対してはどのように争っていくべきなのでしょうか?
3,横浜地方裁判所平成30年07月20日決定
面会・連絡する権利の妨害に対しては,面会妨害禁止の仮処分の申し立ての方法があります。
参考になる裁判例としては,横浜地方裁判所平成30年07月20日決定があります。
兄弟の一方が認知症の両親を施設に入所させて,一方に会わせないようにした事案です。
同決定では,
「子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有するものといえる。」
として,面会妨害禁止の仮処分を認めました。
ここで重要なのは「それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り」という条件が記載されていることです。
つまり,認知症ではない事案の場合,両親の意思なども重視される可能性があるという点です。
また,同決定を分析していくと,面会妨害禁止の仮処分の手段以外にも多くの手段があり,それを実施していかないと面会妨害禁止の仮処分が認められない可能性もあると読み込めました。
以下,「親の囲い込み」事案について通常考えられる手段を記載していきます。
4,面会妨害禁止の仮処分以外の手段
(1)交渉
兄弟で対立している場合,当事者で話し合いができない可能性があります。この場合は,第三者にまずは相談してみましょう。
弁護士などに依頼をし,住所の調査をはじめ,面会を求めていく交渉をしていくことが考えられます。
(2)虐待事案の場合
また,虐待事案の場合には高齢者虐待防止法に基づき,行政に動いてもらう必要もあります。
虐待とは同法律から抜粋すると以下のような定義になってます。
◆「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
二 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
◆「養介護施設従事者等による高齢者虐待」
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
ホ 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
(3)親族間の紛争調整の調停申立て
交渉が困難であった場合に次に考えられるのが親族間の紛争調整の調停申立てです。
裁判所から抜粋します。
「親族間において,感情的対立や親などの財産の管理に関する紛争等が原因となるなどして親族関係が円満でなくなった場合には,円満な親族関係を回復するための話合いをする場として,家庭裁判所の調停手続を利用することができます。調停手続では,親族関係が円満にいかない原因などについて,当事者双方から事情を聴いたり,必要に応じて資料等を提出してもらうなどして事情をよく把握して,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をします。」
もっとも,あくまで調停は交渉の延長でもあります。話し合いなので相手が欠席したり,拒否すると不成立になってしまいます。
(4)親の後見開始の申立て
親が認知症である場合は,後見開始の申し立てをすることが考えられます。しかし,親が認知症であることの診断書が必要であるところ,診断書は連絡すらとれない状況では入手できないこともあります。
となると,そもそも申立てすら難しいことになります。
申立てができたあと,鑑定医の鑑定を本人が受けるかという次の問題も生じます。
事案に寄りますが,少なくとも上記(1)~(4)の実施は面会妨害禁止の仮処分を求めていくには必要だと考えました。
(5)その他(慰謝料請求)
債権者は両親に面会をする権利を有する場合(それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り)には,その権利侵害として不法行為に基づき損害賠償請求を求めていくことが考えられます。
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弁護士 関真悟