交通事故と消滅時効

交通事故と消滅時効の関係はどうなっているのでしょうか?!

改正民法も踏まえて,交通事故と消滅時効について簡潔にまとめます。

一定期間権利を行使しないでいると,時効の援用をされることによって権利が消えてしまうという消滅時効の制度があります。

治療期間が長引いている」

後遺障害や異議申立てに時間がかかっている」

示談交渉に時間がかかっている」

という場合にどのように考えていったらよいのでしょうか?

 

 加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効

交通事故の被害者は,加害者に対し,①身体の損害(人身損害=人損),②物の損害(物的損害=物損),の双方または一方を請求する権利があります(損害賠償請求権)。

①人身損害

人身損害においても死亡による損害,傷害による損害,後遺障害による損害があると考えます。更にはそれらの損害を求める際に,自賠責保険に被害者請求(自賠法16条)や運行供与者責任(自賠法3条)を求めていくことも考えられますが,以下のように考えられます。

(1)死亡による損害

死亡日から5年の消滅時効にかかる(改正民法742条の2)

 (2)傷害による損害

事故日から5年の消滅時効にかかる(改正民法742条の2)

 (3)後遺障害による損害

症状固定日から5年の消滅時効にかかる(改正民法742条の2)

※補足
上記改正民法742条の2の施行前の令和2年3月31日までに発生した事故で,かつ,改正民法742条の2の施行日である令和2年4月1日時点でいまだ消滅時効が完成していない交通事故「以外」は,時効は「3年」となります。

(4)運行供与者責任(自賠法3条)

民法の規定によるとされていますので,(1)~(3)と同じという解釈です(自賠法3条)。

※補足
運行供与者責任とは,例えばレンタカー会社が所有する車両を貸与している場合,運転者に不法行為責任が生じますが,車両を貸与しているレンタカー会社である所有者にも運行供与者として責任が生じるというものです。

(5)被害者請求(自賠法16条)

注意が必要です。3年です(自賠法19条,75条)。

※補足
平成22年4月1日以前に発生した交通事故については2年です。

 ②物的損害

物的損害とは例えば車や衣服に関わる損害です。

事故日から3年になります(改正民法724条)。

※補足
改正前後で変わりがありません。

 

 時効の完成猶予

これまで時効の中断と言われた用語が,時効の完成猶予になりました。内容は大きく変わるものではありませんが,例えば4年と364日に以下の完成猶予があれば,事由が終了するまでは時効は完成せず,更新は始まらないということになります。なお,改正民法151条の協議を行う旨の合意による時効の完成猶予という規定は交通事故では今後多く活用されるでしょう(経験あり)。

①裁判上の請求等による時効の完成猶予(改正民法147条)

・ 裁判上の請求
・ 支払督促
・ 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
・ 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
 

②強制執行等による時効の完成猶予(改正民法148条)

・ 強制執行
・ 担保権の実行
・ 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
・ 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続

 

③仮差押え等による時効の完成猶予(改正民法149条)

・ 仮差押え
・ 仮処分

 

④催告による時効の完成猶予(改正民法150条)

・ 催告があったときは,6か月間,完成を猶予する(1項)
・ 再度の催告は,完成猶予の効力なし(2項)

※補足
催告とは,裁判外で,履行請求をすることです。典型例は内容証明郵便による催告です。6か月間の完成猶予しかなく,5か月30日までに上記①~③等をする必要があります。

 

⑤協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(151条)

今後交通事故の示談交渉中に活用されていくと思います(当職は先日活用してみましたが,損保は案外すんなり応じてくれました)。

書面または電磁的記録で,協議を行う書面を交わせば,最長5年まで時効の完成の猶予をできる規定になります。

 

承認による時効の更新

これまで時効の中断事由の1つとされていた承認が別項目で承認による時効の更新とされました。交通事故では承認による時効の更新は従来からありましたので,交通事故特有の承認による時効の更新も触れていきます。

改正民法152条は承認による時効の更新を設け,

1項で「権利の承認があったときは,その時から新たにその進行を始める。」と規定しております。

 任意保険会社から被害者への直接の支払い 〇

休損や慰謝料仮払いなど,任意保険会社が加害者の代理人的立場で支払っているものとえるため,承認にあたると考えます。なお,任意保険会社が一括対応をしていると医療機関に直接治療費を支払いますが,代位弁済理論により承認になるという考えと,ならないという考えがあると思われます。

任意保険会社からの示談金の提案等の債務の存在を認める書面 〇

任意保険会社から損害賠償額のご案内等の書面で示談金の提案がある場合,債務の存在を認めていることになりますので,たとえ額に争いがあっても,承認になります。もっとも,書面には日付が記載されていることが重要です。口頭の場合,提案した・してないなどで後々争いになっても困りますので日付付きの書面をもらっておきましょう。

自賠責保険金の支払 ×

自賠責保険会社からの支払は,加害者に対する損害賠償請求権の時効の承認事由にはなりません。制度上,自賠責保険会社は加害者の代理人的立場とみることが困難だからです。なお,時効中断承認書というものがあります。これは自賠責保険に対する被害者請求(16条請求)の時効の完成を猶予するものとして151条のようなものと考えられます。

 

最後に

改正前ですが,示談金の提案の書面の記載からすでに3年経ってしまっている事案がありました。

相談者にもう一度現段階の提案を保険会社に要請してみてとアドバイスをしたところ,保険会社が相談者に示談金の再提案してきたことがあり,時効の中断(今は承認による時効の更新)になったことがありました。時効期間が経過していても,保険会社が援用していなのあれば,チャンスはあります。

お気軽にご相談ください。

 

文責:弁護士 関  真 悟

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