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交通事故と消滅時効
交通事故と消滅時効の関係はどうなっているのでしょうか?!
改正民法も踏まえて,交通事故と消滅時効について簡潔にまとめます。
一定期間権利を行使しないでいると,時効の援用をされることによって権利が消えてしまうという消滅時効の制度があります。
「治療期間が長引いている」
「後遺障害や異議申立てに時間がかかっている」
「示談交渉に時間がかかっている」
という場合にどのように考えていったらよいのでしょうか?
加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効
交通事故の被害者は,加害者に対し,①身体の損害(人身損害=人損),②物の損害(物的損害=物損),の双方または一方を請求する権利があります(損害賠償請求権)。
①人身損害
人身損害においても死亡による損害,傷害による損害,後遺障害による損害があると考えます。更にはそれらの損害を求める際に,自賠責保険に被害者請求(自賠法16条)や運行供与者責任(自賠法3条)を求めていくことも考えられますが,以下のように考えられます。
(1)死亡による損害
死亡日から5年の消滅時効にかかる(改正民法742条の2)
(2)傷害による損害
事故日から5年の消滅時効にかかる(改正民法742条の2)
(3)後遺障害による損害
症状固定日から5年の消滅時効にかかる(改正民法742条の2)
※補足
上記改正民法742条の2の施行前の令和2年3月31日までに発生した事故で,かつ,改正民法742条の2の施行日である令和2年4月1日時点でいまだ消滅時効が完成していない交通事故「以外」は,時効は「3年」となります。
(4)運行供与者責任(自賠法3条)
民法の規定によるとされていますので,(1)~(3)と同じという解釈です(自賠法3条)。
※補足
運行供与者責任とは,例えばレンタカー会社が所有する車両を貸与している場合,運転者に不法行為責任が生じますが,車両を貸与しているレンタカー会社である所有者にも運行供与者として責任が生じるというものです。
(5)被害者請求(自賠法16条)
注意が必要です。3年です(自賠法19条,75条)。
※補足
平成22年4月1日以前に発生した交通事故については2年です。
②物的損害
物的損害とは例えば車や衣服に関わる損害です。
事故日から3年になります(改正民法724条)。
※補足
改正前後で変わりがありません。
時効の完成猶予
これまで時効の中断と言われた用語が,時効の完成猶予になりました。内容は大きく変わるものではありませんが,例えば4年と364日に以下の完成猶予があれば,事由が終了するまでは時効は完成せず,更新は始まらないということになります。なお,改正民法151条の協議を行う旨の合意による時効の完成猶予という規定は交通事故では今後多く活用されるでしょう(経験あり)。
①裁判上の請求等による時効の完成猶予(改正民法147条)
②強制執行等による時効の完成猶予(改正民法148条)
・ 強制執行
・ 担保権の実行
・ 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
・ 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
③仮差押え等による時効の完成猶予(改正民法149条)
④催告による時効の完成猶予(改正民法150条)
・ 催告があったときは,6か月間,完成を猶予する(1項)
・ 再度の催告は,完成猶予の効力なし(2項)
※補足
催告とは,裁判外で,履行請求をすることです。典型例は内容証明郵便による催告です。6か月間の完成猶予しかなく,5か月30日までに上記①~③等をする必要があります。
⑤協議を行う旨の合意による時効の完成猶予(151条)
今後交通事故の示談交渉中に活用されていくと思います(当職は先日活用してみましたが,損保は案外すんなり応じてくれました)。
書面または電磁的記録で,協議を行う書面を交わせば,最長5年まで時効の完成の猶予をできる規定になります。
承認による時効の更新
これまで時効の中断事由の1つとされていた承認が別項目で承認による時効の更新とされました。交通事故では承認による時効の更新は従来からありましたので,交通事故特有の承認による時効の更新も触れていきます。
改正民法152条は承認による時効の更新を設け,
1項で「権利の承認があったときは,その時から新たにその進行を始める。」と規定しております。
任意保険会社から被害者への直接の支払い 〇
休損や慰謝料仮払いなど,任意保険会社が加害者の代理人的立場で支払っているものとえるため,承認にあたると考えます。なお,任意保険会社が一括対応をしていると医療機関に直接治療費を支払いますが,代位弁済理論により承認になるという考えと,ならないという考えがあると思われます。
任意保険会社からの示談金の提案等の債務の存在を認める書面 〇
任意保険会社から損害賠償額のご案内等の書面で示談金の提案がある場合,債務の存在を認めていることになりますので,たとえ額に争いがあっても,承認になります。もっとも,書面には日付が記載されていることが重要です。口頭の場合,提案した・してないなどで後々争いになっても困りますので日付付きの書面をもらっておきましょう。
自賠責保険金の支払 ×
自賠責保険会社からの支払は,加害者に対する損害賠償請求権の時効の承認事由にはなりません。制度上,自賠責保険会社は加害者の代理人的立場とみることが困難だからです。なお,時効中断承認書というものがあります。これは自賠責保険に対する被害者請求(16条請求)の時効の完成を猶予するものとして151条のようなものと考えられます。
最後に
改正前ですが,示談金の提案の書面の記載からすでに3年経ってしまっている事案がありました。
相談者にもう一度現段階の提案を保険会社に要請してみてとアドバイスをしたところ,保険会社が相談者に示談金の再提案してきたことがあり,時効の中断(今は承認による時効の更新)になったことがありました。時効期間が経過していても,保険会社が援用していなのあれば,チャンスはあります。
お気軽にご相談ください。
文責:弁護士 関 真 悟
自転車事故
自転車事故の相談
当事務所は,自転車事故を多く扱っている弁護士事務所です。
自転車事故には,自動車事故と異なるところがあります。
わからないことが多いと思いますので,気軽にご相談ください。
以下,①自動車事故弁護士をつけるメリット,②当事務所の自転車事故サービス,③弁護士費用を案内を簡潔にします。
また,自転車保険の義務化についても記載しております(令和2年2月更新)。
自転車事故対応弁護士をつけるメリット
自転車事故対応弁護士メリット1(賠償額の交渉と保険の知識)
自転車には車と違って,自賠責保険がありませんが,警察に届け出て事故処理を行うことは車と同じです。
次に,加害者が保険に入っているかどうか,場合分けして対応方法を書きます。
《加害者が保険に入っていた場合》
加害者の加入している保険会社に賠償額を支払ってもらうことになります。加害者の加入している保険の種類や内容により異なりますが,いったん治療費を立て替えて精算するか,自動車事故と同じように一括対応(病院が直接加害者の保険会社に請求する)をしてもらえる場合もあります。
慰謝料等は提示があるかもしれませんが,約款によっては提示がないところもあります。仮に慰謝料の提示があっても低額なので,弁護士をつけて弁護士基準で交渉するメリットがあります。また自賠責保険がないので,後遺障害の案内をしないこともあります。弁護士をつけて後遺障害の手続きと同様の主張をしていく必要があります。
※ 加害者の保険の例
TSマーク付帯保険,自転車保険,個人賠償責任保険,自動車保険の特約(自転車傷害補償特約や個人賠償責任保険),火災保険の特約(自転車傷害補償特約や個人賠償責任保険)
《加害者が保険に入っていなかった場合》令和2年2月現在(更新),後述するように,東京都も義務化が4月から始まるため,この論点が消滅しかけています。
加害者が保険に入っていなかった場合,ご自身の保険で使える保険がないか検討ください。
ご自身の車の保険などを使用した場合は,治療費は払ってもらえますが,慰謝料は約款のもののため,低額です(後遺障害の慰謝料もかなり低額です)。加害車に直接請求をしていく必要がありますので,弁護士をつけて弁護士基準で交渉するメリットがあります。
ご自身の保険で使える保険がなかった場合,労災→健康保険で検討し,治療費をいったんすべて負担ください。
最後に治療費,慰謝料などすべての損害を,加害者に直接請求していく必要がありますので,弁護士をつけて弁護士基準で交渉するメリットがあります。
自転車対応弁護士メリット2(後遺障害システム欠如に屈しない)
自賠責損害調査事務所による後遺障害の審査・認定システムがありません。
もっとも,上述した保険に入っていた場合,被害者側で後遺障害の等級に該当することを主張・立証していくことで,任意保険会社独自の認定システムで認定されることがあります。
任意保険会社としては顧問医と相談・調査し,後遺障害何級に該当するものか判断するようです。
後遺障害の主張・立証方法は,自動車事故と同様,主治医に後遺障害診断書などを作成してもらうなどします。弁護士に依頼するならば,すべての資料を集めて,申立書を作成することになります。
保険会社独自のシステムでの認定は厳し目になっていますので,仮にその判定に納得できない場合は,訴訟において主張・立証していくことになります。
主張・立証は,専門家である弁護士のお仕事になりますので,お任せください。
番外:自転車保険義務化?
上記のように自転車には自賠責保険がないことから,被害者に高額な賠償責任が生じかねません。
2019年7月産経新聞で,以下のようなニュースがありましたのでそのまま最初のところを書き出します。
「東京都内で発生する自転車事故が近年、増加傾向にある中、都は自転車を利用する都民に損害賠償保険の加入を義務付ける方針だ。9月の都議会定例会に「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」の改正案を提出する。可決成立すれば、施行は来春になる見通し。自転車事故をめぐっては近年、大きな被害や多額の損害賠償が生じることもあり、都の担当者は「保険加入率アップを期待したい」と話す。」(出典元:産経新聞ネットニューhttps://www.sankei.com/affairs/news/190726/afr1907260043-n1.html)
この条例案が可決されれば,東京都においては上記で説明した《加害者が保険に入っていた場合》のみを考えればよいので,被害者救済か可能になります。
令和2年2月更新
自転車保険の加入義務化!?
自転車損害賠償保障等への加入義務化が全国的に進められています。関東域ではすでに埼玉県,神奈川県が義務化の条例を定めています。
東京都も令和2年4月に「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」についてのじてしゃ損害賠償保障等への加入義務化を定めた改正部分が施行されます。
以下,東京都都民安全推進本部のHPから抜粋致します。
<改正のポイント(令和2年4月施行>
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自転車利用者、保護者、自転車使用事業者及び自転車貸付業者による自転車損害賠償保険等への加入を義務化
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自転車小売業者による自転車購入者に対する自転車損害賠償保険等への加入の有無の確認、確認ができないときの自転車損害賠償保険等への加入に関する情報提供の努力義務化
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事業者による自転車通勤をする従業者に対する自転車損害賠償保険等への加入の有無の確認、確認ができないときの自転車損害賠償保険等への加入に関する情報提供の努力義務化
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自転車貸付業者による借受人に対する貸付自転車の利用に係る自転車損害賠償保険等の内容に関する情報提供の努力義務化
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学校等の設置者に対し、児童、生徒等への自転車損害賠償保険等に関する情報提供の努力義務化
当事務所の自転車事故サービス
当事務所では自転車事故の案件を数多く扱ってきており,システム自体にも慣れておりますので安心して依頼が可能です。自転車事故で訴訟をして勝訴した事例や後遺障害12級を獲得している事例もたくさん経験しております。
依頼や相談のタイミングはいつがいいのかわからない方がいますが,①治療前,②治療中,③治療後,④賠償額提示後,いずれにおいても相談・依頼が可能になっております。
他の法律事務所との違いは,①②も対応できることです。他の法律事務所は「治療が終わってから来てください」と言うところが多いようです。
弁護士費用
《相談料》
0円
《全国対応出張相談》
弁護士特約あり→負担なし
弁護士特約なし→日当32400円
《着手金・報酬金》
弁護士特約あり→負担なし
弁護士特約なし→着手金 交渉33000円 報酬金18%+税
【交通事故】むちうち症と神経学的検査
交通事故でむちうち症になった方,神経学的検査はしっかり受けていますか?
神経学的検査は,画像所見と同様に,自賠責損害賠償責任保険後遺障害診断書に記載されます。
外傷性の画像所見がない場合でも,自覚症状を説明する神経学的所見があると,14級が認められる可能性があります(その他に,事故状況,症状の一貫性,通院状況が考慮されることは言うまでもありません)。
今回は,むちうち症の代表的な神経学的検査を頸部に限定して簡潔に記載します。
● スパーリングテスト
神経痕を誘発するテストです。
頭部を痛みのある側に傾け,医師が頭部を圧迫し,頸部から上肢に痛みやしびれがあるかどうかをみます。検査結果は,+(陽性),-(陰性)等と表示されます。
● ジャクソンテスト
神経痕を誘発するテストです。
頭部を可能な限り後屈させ,医師が患者の頭部を上から下に押し下げ圧迫を加え,頸部から上肢にかけて痛みやしびれがでるかをみます。検査結果は,+(陽性),-(陰性)等と表示されます。
● 深部腱反射テスト
腱をゴムのハンマーで叩き、筋に刺激を与えたときに起こる反射(筋収縮)の有無を確認する検査です。
中枢性麻痺(脊髄に異常)が認められるときは、反射は亢進を示します。末梢性麻痺(神経根に異常)が認められるときは、反射は低下、消失します。検査の結果は、亢進(+++)軽度亢進(++)正常(+)低下(±)消失(-)等と表示されます。
● 筋萎縮テスト
筋萎縮の程度を測る検査です。
継続的な神経の麻痺があると筋は委縮するという前提のもと,両上肢の肘から10cmのところの上腕部と前腕部の腕周りを計測し,周径の左右差があるかを検査します。
他にも,握力検査,知覚検査,徒手筋力検査など各検査がありますが,説明を省略します。
自らが治療・リハビリ中に何の検査を受けているのかをしっかり把握して,場合によっては医者に検査を実施するように伝えてください。
関総合法律事務所 弁護士 関 真悟
【交通事故】むちうち症と画像所見
交通事故でむち打ちになってしまった方はMRIを撮ってください。
(むち打ち≒頚椎捻挫,外傷性頸部症候群,腰椎捻挫などの傷病名の診断を受けていること)
■ X-Pだけではなく,MRIを撮る
X-P(レントゲン)は,骨折しているかどうかを確認するのに,当然撮影すべきのですが,やはりそれ以上のことはわからないというのが事実です。
MRIは,骨だけではなく,まさに神経や椎間板といったところがわかります。
X-P(レントゲン)では椎間板の狭小化などがわかないですが,MRI検査では椎間板の変性や膨隆の程度、脊髄の圧迫状況まで把握することができるのです。
MRI検査で所見があると,手足や指のしびれ,肩こり,頭痛,眩暈などの自覚症状を裏付ける決定的な証拠になります。
■ 医師にMRI撮影をお願いしてもよい
実際にあったことなのですが,初診日にX-P(レントゲン)を1度撮影しただけで,異常なしと記載され,それ以降はMRIなどの画像を撮っていなかったということもありました。
なので,そのような事案の場合には,医師にMRIを撮るようにお願いしたほうがよいと思います。そして,できれば3.0ステラ以上のものだとよりよいです。また,MRI撮影のみを行うことのできる専門機関もあります。
■ MRIで異常なしでも14級の可能性
画像所見で異常なしだった場合でも,後遺障害の獲得を諦める必要はありません。
14級は,「局部の神経症状を残すもの」です。事故によって,医学的に神経症状を残すものと証明までできなくても説明できればよいのです。
神経学的検査をはじめ,症状の一貫性,治療状況,事故態様(物損状況),などから「局部の神経症状を残すもの」だと説明できれば,14級を獲得することができます。
以上
関総合法律事務所 弁護士 関 真 悟
【交通事故】後遺障害による逸失利益の算定
交通事故の被害に遭い,残存した症状に後遺障害(1級~14級)が認定されると,
①後遺障害慰謝料のほか,
②後遺障害による逸失利益
という損害が発生します。
(後遺障害非該当の事案だといずれも発生しません。)。
今回は逸失利益について簡潔に書きたいと思います。
■ 逸失利益とは何か?
逸失利益とは何か。
逸失利益とは,後遺障害が残ったことで,労働能力が減少するために,将来発生すると認められる収入の減少のことをいいます。
■ 算定方法は?
有職者または就労者の場合の算定方法は,
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
という計算式になります。
基礎収入は,原則,事故前の現実収入を基礎にします。基礎収入につては,①有職者(給与所得者か事業所得者か),②家事従事者,③無職者,④失業者で考え方や必要な証拠が異なります。
労働能力喪失率については,1級~3級100%,4級92%,5級79%,6級67%,7級56%,8級45%,9級35%,10級27%,11級20%,12級14%,13級9%,14級5%という労働能力喪失率表を参考にしますが,職業,部位や程度,事故前後の稼働状況などを個別具体的にみていきます。
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数については,始期を症状固定日,終期を原則67歳として(67歳を超える方は簡易生命表などを使いますが今回は省略します),労働能力が何年間失われるかということを係数で示した係数表を参考にします。
■ むち打ち症の事案の場合
(例)事故前の年収が600万円の給与所得者で,むち打ち症で14級の後遺障害が認定された事案の逸失利益
600万円×0.05×4.3295=129万8850円
(例)事故前の年収が600万円の給与所得者で,むち打ち症で12級の後遺障害が認定された事案の逸失利益
600万円×0.14×7.7217=648万6228円
■ 最後に
後遺障害の逸失利益の損害項目は,保険会社の提案だとたいていは低額になっており,増額できる可能性のある損害項目になります。
以 上
関総合法律事務所 弁護士 関 真 悟
【交通事故】主婦休業損害
当事務所は主婦の休業損害の案件を多く扱っております。
解決事例をみていただければわかるとおり,後遺障害非該当の事案においても,
総額100万円~220万円(主婦休業損害,傷害慰謝料,交通費)を獲得してきたことが何度もあります。
■主婦休損の基本知識をまず知っておきましょう
①主婦の休業損害は,弁護士に依頼することによって増額できる可能性のある損害項目です。
自賠責基準と裁判基準(弁護士基準)で基礎とする日額が異なるからです。
②兼業主婦の休業損害は,家事労働か現実収入のどちからを採用します。
パートも家事も両方やっていても,実務ではどちらか(高い方)という結論になります。
③主夫の認定は厳しいですが,認められる場合もあります。
男性の家事労働の認定のためには様々な事実や証拠が必要になります(妻が正社員であったり,病気で入退院を繰り返している等)。
■弁護士への依頼有無で休業損害は具体的にどのように変わるか?
「弁護士への依頼の有無で具体的には,どのくらいの金額の違いがあるのでしょうか?」
次のように,「弁護士基準(裁判基準)>任意保険基準>自賠責基準」となっており,約2倍くらいの差がでてくることもあります。
・自賠責基準
自賠責基準は「5700円×休業日数」です。
・任意保険基準
自賠責基準の「5700円×休業日数」がほとんどです。
・弁護士基準(裁判基準)
平成28年度は「1万0397円×休業日数」です。
裁判所は「女性労働者の学歴計の平均賃金センサス」で年収を算出します。
平成28年度の年収は376万2300円とされております。
その年収を365日で割れば1日あたり1万0397円になるのです。
家事労働は日給1万0397円の価値があるのです。高いとみるか・低いとみるかは人それぞではないでしょうか?
なお,主婦にも専業主婦だけではなく,兼業主婦(家事と両立してパートや内職もしている主婦)もいるかと思います。兼業主婦の場合,現実の収入額と女性労働者の平均賃金を比較して,収入の多い方を基礎として日額を算出します。
■ 休業日数の算出には明確な基準はない!?
では,休業日数はどのように算出するのでしょうか。
給与所得者であれば実際に会社を休んだ日が休業日数になります。
主婦の場合,実際に家事ができなかった日は,入院していたときは別として,客観的な証拠がないのでどうやって算出するのか争いになるところです。
後遺障害14級の事案であると,大雑把に
① 実際に通院した日を休業日数とする方法
② 通院開始日から症状固定日までを4等分し,休業率を100%→75%→50%→25%と徐々に減らしていく方法(期間逓減方式)
などがあります。しかし,明確な基準はなく,家族構成や後遺障害の程度や事故前後の家事の内容などによってケースバイケースです。
専業主婦(48歳,併合7級)につき,賃セ女性学歴計(45歳~49歳)平均を基礎に事故当日から症状固定まで556日間,完全な休業を要したと認めた裁判例(大阪地判H13.1.25)などもあります。
経験上,後遺障害非該当事案でも,60日分程度は認められることが多い感覚はあります。
■ 最低限の証拠は残しておく
診療録(カルテ)には,自覚症状などが細かく記載されます。
医師に症状や労働能力の制限がある場合等はきちんと伝えておくことが大切です。
当職の経験で,14級の訴訟事案で,クライアントから提供を受けた日記やメールを精査し,争いのある期間で,明らかに家事ができていないことの証拠になる部分があって,当該期間の休業を立証できたこともあります。
【交通事故】事故直後の写真撮影の重要性
事故直後は身体の痛みやパニックで余裕がないかもしれませんが,
むち打ち症の場合(腰椎捻挫や頚椎捻挫),「事故状況」や「車両損傷状況」の写真を自ら撮影しておくとよいと思います。
・「事故状況」であれば,実況見分調書
・「車両損傷状況」であれば,修理工場の見積書と写真(保険会社のアジャスターという査定担当者も関与しています。)
があるので,わざわざ写真撮影をしておく必要はないのではないか?
と思われるかもしれません。
確かに,上述の物は作られますが,
実況見分調書に立ち会いましたか?
アジャスターの査定に立ち会いましたか?
といったところです。
やはり事故というものは過去の一時点の出来事で,時間が経過すると,作られてしまった証拠から認定される事実を覆すことが難しくなってきます。
物損は当然,過失割合や事故態様で争いがある場合,被害者が撮影した写真というものが欲しいと思うことがよくあります。
更に,「事故状況」や「車両損傷状況」は,自賠責調査事務所が後遺障害の有無を判断する要件のなかの1つですが,最近は重視される傾向にあるので,被害者請求で後遺障害等級申請手続きをする場合にも欲しいところです。
接骨院や整骨院の施術費
施術費の法律相談
相談者「交通事故で接骨院にしか通院してないのですが,大丈夫でしょうか?」
弁護士の回答内容
弁護士「だめです。弁護士に早めに相談したほうがいいでしょう。」
弁護士の実務解説
接骨院のマッサージなどは「施術」といい,施術にかかる費用を「施術費」といいます(治療・治療費とはいいません)。
交通事故の被害者は,医療機関(整形外科等)での治療・リハビリのみならず,接骨院・整骨院で「施術」を受ける方もいるかもしれません。実際に治療・リハビリと併用して接骨院・整骨院で「施術」を受けることで,効果があったという声をたくさん聞いてきます。
医療機関(整形外科等)は投薬と経過観察だけという場合が多いからです(ただし,整形外科にもリハビリ施設のあるところはたくさんあります。)
東洋医学と西洋医学の根本的な違いがありますが,双方を併用して改善されたのにもかかわらず,接骨院の施術費は全否定されてしまうのか?自己負担になってしまうのか?ということについて考えていきます。
いわゆる赤い本には「症状により有効かつ相当な場合,ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向がある」と書いてあります(赤い本2016年P3)。
実際はどうなのでしょうか?
当職の交通事故案件の経験を踏まえて,■ 示談交渉レベル と ■ 訴訟(裁判)レベル で分けて書きたいと思います。
■ 示談交渉のレベル
原則,加害者付保の自賠責保険・任意保険を使用して施術を受けることになりますので,接骨院の施術費について被害者の負担はありません。
一括対応してもらうことで,接骨院側が加害者付保任意保険会社に施術証明書というものを郵送し,施術費を支払ってもらっているのです。
多少,施術日数や施術費の金額が膨らんでしまっても,加害者付保の保険会社側が弁護士をつけないかぎり,「症状により有効かつ相当な場合,ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向がある」という要件を厳密にはみてこないので,そのまま示談できてしまう場合が多いです。
ただし,のちのち訴訟(裁判)レベルになる可能性があることも踏まえれば,施術を受ける場合には医師の指示又は同意を得ておくべきでしょう。
更に次の点に注意が必要です。
・ 整形外科等の部位数と接骨院の部位数を絶対に間違えないこと
・ 整形外科等に事故直後1回のみ通院し,以降全部接骨院という通院の仕方は問題があること
また,例えば,後遺障害“等級なし”の結果になるうえに,施術費を廻るトラブルが潜んでいる可能性があるので注意してください。
近時は,某保険会社で整骨院中心の事案について,後述する訴訟を意識してなのか,数回交渉をしていっても慰謝料につき「弁護士基準8割まで」を主張してくるところもありました。
■ 訴訟(裁判)レベル
訴訟(裁判)になれば,加害者(保険会社)側は弁護士をつけて,なるべく支払うべき費用を抑えるような反論を組み立ててきます。
整骨院・接骨院の施術日数や施術費の金額が膨らんでいると,たいていは,①医師の指示又は同意がない,②施術の有効性・必要性がないから,〇か月目以降は損害ではないからカットされるべき,などの反論をしてきます(保険会社が接骨院・整骨院に支払い済みである場合にも反論してきます)。
これに対し被害者側は再反論しなければならないので,上述のように,施術を受ける場合には医師の指示又は同意を得ておくべき,と書きました。
裁判所は,保険会社が接骨院・整骨院に支払い済みの部分は,被害者側有利にみてくれる傾向はありますが,それでも整骨院・接骨院の施術日数や施術費の金額が膨らんでいる事案の場合は,全体の6割~8割くらいしか認定してくれない場合もあります(欠けた部分は満額の慰謝料認定で調整するしかありません)。近時の東京地裁だと5割くらいの印象があります。
裁判所は,施術費については,やや厳し目にみているといえます。
極端な例ですが,事故直後の1回のみ整形外科に通院し,あとは整骨院・接骨院だけに週6回施術というパターンは,後遺障害“等級なし”の結果になるうえに,慰謝料0円となる可能性もあるので十分注意してください。
加害者が保険に未加入?無保険の交通事故の対応
交通事故に遭ってしまったが,加害者が無保険だった場合,
どのように交通事故を進めていくのがよいのでしょうか?
保険の仕組みなどを理解する必要がありますので,以下,解説していきます。
無保険事故の法律相談
【無保険事故の法律相談】
相談者「交通事故の被害に遭いました。加害者が保険に入っていないようです(無保険事故)。これからどのように対応していけばよいでしょうか?」
弁護士「傷害については,①ご自身の人身傷害保険・搭乗者傷害保険を使うor②加害者が車やバイクの場合は,自賠責保険会社に被害者請求を行う,
そのうえで,差額分(裁判基準)は,加害者本人に直接請求を行う。もしくは,加害者の車やバイク以外の個人賠償責任保険等がある場合,それを使用して,最終的に裁判基準で交渉する。
それぞれの手続・交渉は弁護士にお任せください(裁判基準・弁護士基準での交渉は弁護士しかできません)。」
以下,詳細をみていきます。
原則~被害者の負担や支払うものはないはず
原則として,通常,交通事故は加害者付保任意保険会社が一括対応します。
一括対応とは,加害者付保保険会社が治療費等の損害を立て替えて支払って,加害者付保保険会社が後で自賠責保険会社から回収するのです。
このため,加害者付保保険会社がある場合,原則として被害者が治療費等を支払うこと(立て替えること)はないのです。
例外~無保険事故は例外対応を余儀なくされる
例外として,タイトルにもあるとおり「無保険事故」というものがあります。
「無保険事故」には,
①自賠責保険加入〇,任意保険未加入✕
②自賠責保険未加入✕,任意保険未加入✕
の2種類あります。
自動車やバイクには自賠責保険の加入が義務付けられています。自動車やバイクの場合の無保険事故は主に(①自賠責保険加入〇,任意保険未加入✕)が多いです。
自賠責保険にすら加入していない場合(②自賠責保険未加入✕,任意保険未加入✕),処罰の対象になります。
※ 加害者が自転車の場合の補足
自転車には保険への加入が義務付けられていませんので,実は「無保険事故」に該当する場合が多いです(②自賠責保険未加入✕,任意保険未加入✕)。
ただし,無保険事故かどうかは再確認してみてください(以下のような保険が使える場合があります)。
・自転車購入時に加入するケースの多いTSマーク付帯保険
・自動車保険等の特約,火災保険等の特約
・個人賠償責任保険
対応~無保険事故は具体的にどのように対応するか
無保険事故の被害者はどのように対応していけばよいのでしょうか?
(1)総論
ア,物件事故ではなく「人身事故にしておく」
イ,交通事故証明書を取得して加害者の自賠責保険会社の有無を確認する。
ウ,ご自身加入の保険会社に連絡し,人身傷害保険,搭乗者傷害保険・無保険車傷害保険・車両保険・弁護士特約等が使えるかの確認をする。
(2)各論
前提事項をきちんと押さえたうえで,それぞれをみていくことになります。
【自分が加入している保険を使う場合】
① 自分が加入している保険を使って治療をする
自分や(注)家族が加入している保険の人身傷害補償特約や搭乗者傷害保険特約などを使用すれば,加入している保険会社に治療費を全額負担してもらえるうえに,休業補償や慰謝料などは最低限の金額のものを支払ってもらえます。 なお,後遺障害や死亡の場合のみに使える無保険車傷害特約というのもあります。
(注)家族とは同居の家族やあなたが未婚の場合は別居の家族を指します。
※ なお,通勤中・勤務中の事故の場合には労災保険も使えます。労災保険は勤めている会社の協力が必要になります。
② ①の支払いを受けた後,無保険の加害者に直接請求する
①は約款に基づく支払いなので,裁判基準(弁護士基準)に照らせば低額ですので,無保険の加害者に①との差額を請求していくことになります。
なお,この際に,自分が加入している保険会社が加害者付保の自賠責保険金を回収した場合の損益相殺などの問題がでてきますが,複雑になるので説明を省略します。
【自分が加入している保険がない場合や加害者付保の自賠責保険を使う場合】
① 加害者付保の自賠責保険を使用する
支払いは限度額の範囲内で、自賠責基準に基づいて行われます。限度額は,傷害の場合120万円限度です。後遺障害がついた場合14級75万円です。
※ なお,通勤中・勤務中の事故の場合には労災保険も使えます。労災保険は勤めている会社の協力が必要になります。
② ①の支払いを受けた後,無保険の加害者に直接請求する
①は自賠責基準ですので,裁判基準(弁護士基準)に照らせば低額ですので,無保険の加害者に①との差額を請求していくことになります。
【番外:加害者が自賠責保険にも入っていなかった場合】
① 政府の自動車損害賠償保障事業を使う
自賠責保険契約が締結されていない場合のほか,轢き逃げ事案の場合などには,政府の自動車損害賠償保障事業から政令で定める限度において損害の填補を受けることができるのです。
※ なお,通勤中・勤務中の事故の場合には労災保険も使えます。労災保険は勤めている会社の協力が必要になります。
② ①の支払いを受けた後,無保険の加害者に直接請求する
①は,裁判基準(弁護士基準)に照らせば低額ですので,無保険の加害者に①との差額を請求していくことになります。
4,まとめ
いずれも,最終的には「無保険の加害者に直接請求する」という結論になります。
加害者への直接請求は損害額の計算を含め,弁護士に相談・依頼されることオススメ致します。
弁護士費用特約は,上述のような事案でも,使用できます。
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弁護士 関真悟
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