目次
施術費の法律相談
相談者「交通事故で接骨院にしか通院してないのですが,大丈夫でしょうか?」
弁護士の回答内容
弁護士「だめです。弁護士に早めに相談したほうがいいでしょう。」
弁護士の実務解説
接骨院のマッサージなどは「施術」といい,施術にかかる費用を「施術費」といいます(治療・治療費とはいいません)。
交通事故の被害者は,医療機関(整形外科等)での治療・リハビリのみならず,接骨院・整骨院で「施術」を受ける方もいるかもしれません。実際に治療・リハビリと併用して接骨院・整骨院で「施術」を受けることで,効果があったという声をたくさん聞いてきます。
医療機関(整形外科等)は投薬と経過観察だけという場合が多いからです(ただし,整形外科にもリハビリ施設のあるところはたくさんあります。)
東洋医学と西洋医学の根本的な違いがありますが,双方を併用して改善されたのにもかかわらず,接骨院の施術費は全否定されてしまうのか?自己負担になってしまうのか?ということについて考えていきます。
いわゆる赤い本には「症状により有効かつ相当な場合,ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向がある」と書いてあります(赤い本2016年P3)。
実際はどうなのでしょうか?
当職の交通事故案件の経験を踏まえて,■ 示談交渉レベル と ■ 訴訟(裁判)レベル で分けて書きたいと思います。
■ 示談交渉のレベル
原則,加害者付保の自賠責保険・任意保険を使用して施術を受けることになりますので,接骨院の施術費について被害者の負担はありません。
一括対応してもらうことで,接骨院側が加害者付保任意保険会社に施術証明書というものを郵送し,施術費を支払ってもらっているのです。
多少,施術日数や施術費の金額が膨らんでしまっても,加害者付保の保険会社側が弁護士をつけないかぎり,「症状により有効かつ相当な場合,ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向がある」という要件を厳密にはみてこないので,そのまま示談できてしまう場合が多いです。
ただし,のちのち訴訟(裁判)レベルになる可能性があることも踏まえれば,施術を受ける場合には医師の指示又は同意を得ておくべきでしょう。
更に次の点に注意が必要です。
・ 整形外科等の部位数と接骨院の部位数を絶対に間違えないこと
・ 整形外科等に事故直後1回のみ通院し,以降全部接骨院という通院の仕方は問題があること
また,例えば,後遺障害“等級なし”の結果になるうえに,施術費を廻るトラブルが潜んでいる可能性があるので注意してください。
近時は,某保険会社で整骨院中心の事案について,後述する訴訟を意識してなのか,数回交渉をしていっても慰謝料につき「弁護士基準8割まで」を主張してくるところもありました。
■ 訴訟(裁判)レベル
訴訟(裁判)になれば,加害者(保険会社)側は弁護士をつけて,なるべく支払うべき費用を抑えるような反論を組み立ててきます。
整骨院・接骨院の施術日数や施術費の金額が膨らんでいると,たいていは,①医師の指示又は同意がない,②施術の有効性・必要性がないから,〇か月目以降は損害ではないからカットされるべき,などの反論をしてきます(保険会社が接骨院・整骨院に支払い済みである場合にも反論してきます)。
これに対し被害者側は再反論しなければならないので,上述のように,施術を受ける場合には医師の指示又は同意を得ておくべき,と書きました。
裁判所は,保険会社が接骨院・整骨院に支払い済みの部分は,被害者側有利にみてくれる傾向はありますが,それでも整骨院・接骨院の施術日数や施術費の金額が膨らんでいる事案の場合は,全体の6割~8割くらいしか認定してくれない場合もあります(欠けた部分は満額の慰謝料認定で調整するしかありません)。近時の東京地裁だと5割くらいの印象があります。
裁判所は,施術費については,やや厳し目にみているといえます。
極端な例ですが,事故直後の1回のみ整形外科に通院し,あとは整骨院・接骨院だけに週6回施術というパターンは,後遺障害“等級なし”の結果になるうえに,慰謝料0円となる可能性もあるので十分注意してください。