目次
1,治療費打ち切りの相談
相談者「損保の担当者から電話で一方的に「今月末で終わりにします」と言われました。まだ痛いですし,医師ももう少しリハビリを続けるように言っています。どうしたらよいでしょうか?交通事故に強い弁護士さん,教えてください。」
2,弁護士の回答=治療費打ち切りの対抗策!
弁護士「①医師から症状固定の時期についての意見書・診断書をもらってください。診断書・意見書の内容によって,一括対応期間を延長することができることがあります。②延長できないときは,医師に症状固定の時期がまだ先であることを確認したうえ(カルテに残してもらう,意見書・診断書をもらう),健康保険に切り替えて3割負担で通院していくことが考えられます。そして,3割負担分,治療期間は保険会社との交渉次第になります。③仮に保険会社が「3割負担分も払わない,治療期間も保険会社が打切り時以降は認めない」という見解の場合でも,自賠責の範囲内(治療費と慰謝料などすべてあわせて120万円が限度※ただしこれまでの一括対応中の治療費等の既払い金も含むので注意)であれば被害者請求による回収が可能なことが多いです。④自賠責の枠(120万円)がない場合には,訴訟(裁判)で裁判官に固定時期を判断してもらう必要があります。」
3,治療費打ち切りの解説
(1)治療費打切りと治療終了はイコールではない!
加害者の任意保険会社(以下「任意社」といいます。)による治療費打ち切りは,治療終了を意味するものではありません。
任意社が一括対応を終了するだけのことです。
一括対応というのは,任意社が(※のちに任意社が自賠責から治療費等を回収します)病院などの治療費をいったん立て替えて支払いをしているだけということです。つまり,立て替え払いを終了するということなのです。
立て替え払いを終了の理由は色々ありますが,下記理由が多いです。
・治療の目途が見えないための判断か?
・医療照会や医師面談を踏まえての判断か?
・事故と怪我の因果関係を争うための判断か?
(2)それでは治療終了はいつなのか?症状固定の理解が必須!
交通事故の被害者は「症状固定」になるまでの間の因果関係のある損害を請求することができるのです。
「症状固定」とは,事故による怪我の治療やリハビリをひと通りしたけれど,これ以上よくならない状態です。
したがって,医師にきちんと症状と伝える,改善の余地があるのか含めてを医学的に判断してもらい,診断書などで症状固定の見込み時期等の医学的意見を書いてもらう必要があるのです。
もちろん,保険会社も先手を打って,医師に医療照会をというものを行っている可能性があります。医療照会では症状固定の見込み時期をチェックする欄がありますので,先に打ち切り日を見込み時期として書類化されてしまっていると,延長などは困難なことが多いです。
裁判では医師が後遺障害診断書に記載した症状固定日を当然重視はしますが,事故態様と症状と治療方法や改善可能性から,どの程度の治療期間が妥当なのかを実質的にみていくことになります(実際には症状固定日が争点になる事案もありました。)
症状固定は,交通事故実務特有の概念だと考えます。
賠償に目途をつけるという意味もあります。
例えば軽微な事故でむちうち等で1年等は実際はあり得ないというのは実務でも共通認識であり,長くても6か月,後遺障害が残るレベルの事故でもむちうちの場合は6か月~10か月(10か月もほぼまれ)くらいが当職の経験です。
なお,むちうち以外の骨折でプレート除去手術等がある場合は,除去等をしてからになるため,1年を超えることはあります。
(3)打ち切り後の治療費は全部自己負担になってしまうのか?
治療費を打ち切られたあと,治療費は全部自己負担になってしまうのでしょうか?
上述2の治療費打切りの対抗策で回答した内容をもう少し掘り下げてみます。
ⅰ)加害者の任意社と健康保険通院で支払約束をしてもらう。
任意社は,まだ改善の余地がありそうだけど(医師からも固定の確認がとれてない),治療費が膨らみすぎているので,とりあえず一括対応を終了すれば,治療をやめてくれるのではないかという理由で,治療費打ち切りにでている場合があります。
この場合,任意社は健康保険に切り替えれば,治療費(3割)を支払ってくれる約束をする場合も多いです。
健康保険のほうが,自由診療より治療費の負担額が半分以下になるので,支払いを抑えられるため,という理由が背景にあるのではないかと考えます。
その際「第三者行為による傷病届」を作成します。この書類のなかには誓約書等の書類も含まれており,加害者(または任意社)に書類を作成してもらう必要があります。
それによって健康保険組合は保険会社に7割分を求償請求するのです。
このような書類の取り付けなども弁護士に依頼することでお客様の負担は軽減されます。
ⅱ)加害者の任意社と症状固定後,示談交渉時に話し合いをする。
交通事故の賠償は症状固定にならないと決まらない・算定できません。
そこで,症状固定後,示談交渉時に治療費の立替分(3割)と治療期間の2点の話し合いを行います。
通常はこのパターンが多いと思います。
自賠責保険会社から回収できるか,裁判になったらどうなるかという予測のもと話し合いができるので,保険会社もこのパターンを採用することが多いです。
もちろん,保険会社によっては,100%認めないという最終決断をする場合があります。
その場合は下記に詳述するⅲ)以降の対応が必要になります。
ⅲ)加害者の自賠責保険会社に被害者請求をする。
任意保険会社が全く対応してくれないのであれば,既払い金などを考慮して,120万円の範囲内であれば,被害者請求で回収できる場合もあります。
被害者請求(傷害分)をするには,一括終了後の通院についても交通事故による通院であることの証明が必要になるため,自賠責用の診断書を作成してもらうほか,診療報酬明細書,立て替えた領収書などを集める必要がでてきます。
被害者請求は弁護士に依頼することで,間違いなく行うことができ,お客様の負担は軽減されます。
ただし,既に治療費が膨らんでいて120万円の枠がない場合や,加害者が車やバイクではなく,自転車の場合には被害者請求ができません。
ⅳ)労災保険で治療を続ける。
通勤中の事故などであれば,労災保険を使って治療を続ける方法があります。
基本的には,健康保険の前に,労災保険の使用を検討します。
ⅴ)ご自身が加入している保険の人身傷害保険や搭乗者傷害保険を使って治療を続ける。
ご自身の加入している保険の人身傷害保険や搭乗者傷害保険を使用することで,自己負担なくして通える場合もあります。
ただし,打切り事案の場合,被害者付保保険会社も,慎重になることが多いです。
「事故原因調査をする」という会社がほとんどで,時間がかかることもあるかもしれません。
ⅵ)訴訟提起する。
最終的には裁判所に固定時期を判断してもらうべく,訴訟を提起しなければならない場合もあります。
(4)打ち切られた後は経済的に厳しいけど・・・
ⅰ)人身傷害保険や搭乗者傷害保険の見舞金は受け取りましたか?
車やバイクの事故の場合,被害者自身の保険会社には必ず連絡を入れましょう。
例えば「通院5日以上で10万円を見舞金としてお支払します」との特約がついている場合があります。
ⅱ)仮渡金の請求(自賠法17条)というものがあります
交通事故は治療が終了するまでは損害が確定しません。
そこで,自賠法は被害者救済の趣旨から,仮渡金の請求というものを認めています。もっとも「仮」なので,あとで損害確定時に総損害からは控除されますので,最終的な受取額がその分少なります。
ア.死亡
→ 290万円
イ.①脊柱の骨折で脊髄を損傷,②上腕または前腕の骨折で合併症,③大腿又は下腿の骨折,④内臓の破裂で腹膜炎を併発,⑤14日以上病院に入院することを要する傷害かつ医師の治療を要する期間が30日以上のもの
→ 40万円
ウ.①脊柱の骨折,②上腕又は前腕の骨折,③内臓の破裂,④病院に入院することを要する傷害、⑤14日以上病院に入院することを要する傷害
→ 20万円
エ.11日以上医師の治療を要する傷害を受けた者
→ 5万円
4,お困りの方はお問い合わせください
治療費打ち切りでお困りの方は気軽にお問い合わせください。
TEL 03-6304-8451
メール seki@sekisogo.com
文責 弁護士 関 真悟