相続とお金の使い込みの争い~使途不明金問題

1,使途不明金とは何か

亡くなった方(「被相続人」といいます)の預金通帳や取引履歴をみると,

 

死亡前または死亡後に複数回にわたり,多額の預金の引出行為がなされていることがあります。

※ よくある事案

たとえば,被相続人(母)には子が3人(A,B,C)いるとしましょう。

Aは母と同居して母の介護をしていた。B,Cは遠方に住んでおり同居していません。

B,Cが,母の預金から多額の預金が引き出されていることを知って,「全部Aがやったんだ。返せ。」と言う事案です。

既に亡くなっているので,亡くなった本人に自分で引き出したのか・お金はどこにあるのかといった事情を聞くことができません。

事情を知っている相続人がきちんと説明し,その説明が合理的で,他の相続人が納得をすれば争いにはならないかもしれません。

しかし,説明があやふやで領収書などの証拠なども保管していないと,争いになってしまうことが多いです。

このような使途不明金の問題については実務ではどのようになっているのでしょうか。

どのように解決していくのでしょうか?

 

2,使途不明金は実務ではどのように扱うか

(1) ①死亡前の使途不明金と②死亡後の使途不明金

①死亡前の使途不明金は,返還を求める側から贈与の主張がでる場合,遺産分割における特別受益の問題になります。

他方で,贈与の枠組みで解決しない場合,一般的な使途不明金の問題になり,返還を求める側は不当利得であることの立証責任を負います。

 

②死亡後の使途不明金は,遺産分割前の相続預金の払戻制度で払い戻しを受けた場合,遺産の一部分割があったものとみなされます。

他方で,同制度を利用していない場合,一般的な使途不明金の問題になり,返還を求める側は不当利得であることの立証責任を負います。

※ 遺産分割前の相続預金の払戻制度
 被相続人の預貯金額×1/3×払い戻しを希望する相続人の法定相続分。但し、同一銀行から払戻しを受けられる金額は相続人各150万円が上限になります。

(2) ①死亡前の使途不明金の立証責任

返還を求める側は不当利得であることの立証責任を負います。

まず問題になるのが引出行為者です。

ア、被相続人が引き出していたのか,

イ、相続人の1人が引き出していたのか,

が問題になります。

アの場合,不当利得とはいえなくなります(もっとも被相続人が引き出した金員が相続人に渡っているところが証明できれば贈与といえる可能性があり特別受益の問題とします)。

イの場合は,被相続人が同意していたのかが問題になります。

同意していない場合は,意思に基づかないものとして,他の相続人が,勝手に引き出した相続人に返還請求を求めていくことになります。

同意していた場合は,金員の行方によっては不当利得または贈与と扱っていくことになります。

たとえば,被相続人が寝たきりの場合などは同意はないといえるでしょう。

次に問題になるのは金員の行方です。

相続人の1人が自分の為に使った,自分の口座に入れたなどの事実を証明できるのであれば,返還請求権の証明は十分でしょう。

他方で,金員がどこにいったかわかないという事案は多いです。この場合,「被相続人の必要経費だった」という反論がよくあります。

この場合,返還を求められている相続人が必要経費を裏付ける領収書などで,合理的な説明をしていくことがメインとなってきます。

(3)②死亡後の使途不明金の立証責任

上記同様,返還を求める側は不当利得であることの立証責任を負います。

もっとも,死亡前と異なり,死後なので,被相続人の同意はないことが明白です。

したがって,金員の行方だけがメインの争点となります。

前述したとおり,「被相続人の必要経費だった」という反論,

つまり,返還を求められている相続人が必要経費を裏付ける領収書などで,合理的な説明をしていくことがメインとなってきます。

たとえば,入院費用,携帯代,電気代,交通費などは必要経費にあたる場合が多いです。

3,弁護士に依頼をした場合,使途不明金はどうやって解決していくか

(1)請求する側と請求されている側(交渉レベル)

弁護士は請求側も被請求側も相談に乗ります。

まずは証拠分析と立証計画を立てます。

したがって,通帳履歴,取引履歴のほか,たとえば領収書,家計簿,診断書,払い戻し用紙,カルテなど関係しそうな資料をすべて持参してもらうことになります。

そのあと,遺産分割協議中なのかそうなのか等を含め,手続き関係を決めていきます。通常は交渉解決ができないかを考えます。そのほうが迅速で費用面でもお得なためです。

もっとも,交渉が難しい場合,裁判所の手続きにしたがって解決していきます。

(2)調停での解決

裁判所に使途不明金調停というものは起こすことができません。
 
といういのも,遺産とは,死亡時に,現に存在している財産であり,既に払い戻されている場合は,死亡時に「ない」ため,遺産にならないとされてるからです。
 
他方で,遺産分割調停のなかで使途不明金の話し合いをあわせて行うことに全員が合意した場合は,使途不明金も遺産分割調停で話し合いが可能でした。

もっとも,払い戻しをした当の本人が同意をしない場合が多いため,民事訴訟で遺産の範囲の確認の訴えや不当利得返還訴訟をしなければならず,非常に遠回りで時間がかかるものでした。

 
ところが,民法改正により,

遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)という条文が設けられました。

第906条の2
  1. 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
  2. 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

この規定により,実際の払い戻しをした相続人の同意はなくても,他の相続人の全員の同意があるときは,遺産分割の対象として存在するものとみなすことができるようになりました。

なので,調停で遺産分割調停のなかで話し合いをすることが容易になりました。

もっとも,同条文は注意が必要で,引出行為者に争いがない場合を前提にしていると解釈できますし,引出行為者や金員の行方などで,争いがある場合は結局話し合いは決裂となり,

合意ができないときは,従前どおり,次に記載する訴訟でしか争うことができないという結論になります。
 

(3)訴訟での法律構成

 
調停で解決ができない場合は,遺産分割とは別のもの遺産分割の前提問題として,訴訟を提起しなければなりませ
そのときの法律構成は,
 
遺産分割もまだ解決しておらず,使途不明金を遺産に含める方向性でいく場合には遺産確認訴訟(この場合再度遺産分割調停審判が必要になります)
 
一部分割が済んでいるなど,遺産分割自体は問題ない場合には「被相続人名義の預金口座から出金された使途不明金」の相続割合分を返せという不当利得返還請求訴訟
 
が選択されます。
 

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弁護士 関真悟

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